この項では、無痛分娩のリスクについてふれてゆきます。
①低血圧:麻酔薬が効き過ぎると低血圧を起こします。低血圧が長時間続くと子宮への血流量が減り、赤ちゃんへの酸素の供給が減少して胎児徐脈を引き起こします。長時間の胎児徐脈は大変危険なため、無痛分娩中の血圧管理は非常に大切です。頻繁に血圧を測定し、胎児心拍を常にモニターする必要があります。
②分娩遷延:無痛効果が高すぎると、出産直前の怒責(いきみ)がうまくいかず、分娩第二期(子宮口全開大から分娩まで)が遷延することがあります。そのため、いきみのタイミングでしっかりと力が入るように、ある程度の痛みを残しておくことも必要と考えられています。あまりに分娩が遷延する際には、吸引分娩やクリステレル圧出法(いきみの補助を目的にお腹を上から押すこと)、場合により帝王切開が必要になります。
③発熱:麻酔薬の効果で血管が拡張し、一時的に体温が上昇することがあります。子宮内の感染によるものでなければ体を冷やすなどで対処します。
④皮膚掻痒:麻酔薬の効果で全身に痒みが出ることがあります。通常は開始数時間で改善されます。
⑤頭痛、下肢のしびれ:硬膜外チューブを入れる操作で、髄液(頭蓋内から脊髄腔を満たす液)の圧が変化し、頭痛や、下肢のしびれが残ることがあります。通常は1週間ほどで改善されます。
総じて言えることは、リスクについて医療従事者、患者様の双方が十分に理解し、リスク発生時に落ち着いて対処することが大切と考えます。
等々力産婦人科
鈴木啓太郎